米エヌビディアは、米国の輸出規制を受けつつも、中国市場へのAIチップ供給を再構築している。2025年7月には、かつて禁止されていた中国向けAI半導体H20の輸出が解禁された。エヌビディアはこの輸出許可を得るため、売上の15％を米政府に支払うという異例の条件を受け入れている。H20は、Hopperアーキテクチャを用いたH100の性能を抑えた「中国特供版」である。

現在、新たに開発中のチップ「B30A」は、Blackwellアーキテクチャを基にしており、H20を上回る性能を持つ見通しだ。具体的には、上位モデルB300の約半分の演算性能を持つシングルダイ設計で、高帯域メモリとNVLinkを備える予定である。テスト用サンプルは早ければ来月にも提供が開始される見込みだ。

さらに、推論向けの低仕様チップ「RTX6000D」も同時に開発中である。これはGDDRメモリを搭載し、1.398TB/sというメモリ帯域幅で、米国の輸出制限基準を僅かに下回る仕様として設計されている。RTX6000DはH20よりも低価格で、9月には中国向けに少量出荷される予定だ。

中国市場におけるエヌビディアの戦略は、規制への順応と中国内での代替技術の進展という両面対応である。米政府との収益分配を条件としたH20の再輸出は、短期的には収益確保と中国企業との関係維持に寄与する。しかし、中国政府や市場では、H20への安全保障上の懸念や国内企業支援が強まり、自国開発AIチップの台頭も加速している。

今後、B30AやRTX6000Dが承認・投入されれば、中国向けAIチップの供給体制は強化される可能性がある。ただし、米中間の輸出規制や地政学的リスク、さらに中国国内勢との競争が見通しを左右する点は変わらない。